新星女学園・探偵倶楽部(3)
あの部屋で、縄と格闘していた由巳子が、ふと目を閉 じ、一息ついてまた開いた時、白銀仮面が彼女の背後に 立っていた。 (いつの間に?!) 由美子の驚きをよそに、白銀仮面は、由巳子の脇にしゃ がみ込んだ。 「楽しんで頂けているかな? 井上由巳子君」 白銀仮面は、からかうような口調で声を掛けた。 (この男…私の名前を知っていた…最初から!) 今度だけではない。白銀仮面は、誘拐した少女たち全 てをその名で呼んでいたという。由巳子も最初に拉致さ れた時からそうだった。その事は、探偵倶楽部の部会で も問題になっていた。 怪人は、探偵部室の近くに潜んでいて、彼女たちの会 話や打ち合わせを盗み聞きしているのだろうか。それと も…。 (学校の関係者?!) 皆が思っているが、さすがに美和子先生のいる前では 口に出しかねている思い。 由巳子は睨みつける視線の奥に疑いの目を隠しながら、 怪人の背格好を観察した。長身で筋肉質な所は、この学 園にいる男性体育教師でも当てはまりそうだ。しかし、 特に誰と言うほど似ているかは分からない。小等部から 大学部まで、男性体育教師は何人もいるのだから。 「私は警告したはずだ。探偵倶楽部を辞めなければ、もっ と痛く、苦しく、恥ずかしい目に会うことになると。そ れなのに、君は従わなかった。何故かね?」 (もちろん、お前を捕まえるためよ!) 由巳子はきつい目で白銀仮面を睨むが、相手の口調は むしろ楽しそうだった。 「ともあれ、約束のお仕置きはしなければなるまいね」 怪人の左手が、由巳子の腰に触れ、由巳子の体がびくっ と震えた。 「むうっ!」 生まれてはじめて体験する、いやらしく動く男の手の 感触。由巳子は懸命にもがくが、きつく縛り上げられた 身では、怪人の手を逸らす事も出来ない。 「君は探偵部員の中で、最も良く発育しているね。勿論、 身長や運動神経なら華子君の方が上だがね。君の場合は そこじゃない」 右手は由巳子の肩越しに伸び、制服の紺色の布地に包 まれた胸を撫で始める。 「ううぐぐ!」 敏感な場所を触れられ、由巳子の体に電流が走った。 それは、くすぐったさと嫌悪感が入り混じったような、 それ以外の何かがその奥に潜んでいるような、不思議な 感覚だった。 「…此処だな。あるいは…ここか」 左手は腰から尻へと目標を替え、撫でさすり始めた。 怪人は次第に身を屈め、由巳子の耳元に口を近づけて、 囁く様な小声になっていく。 「体だけじゃない。君の心も、既に大人になりつつある ようだ」 白銀仮面は、右手を後ろから由巳子の肩の下に差し込 み、抱き起こした。今まで肩越しに覗き込んでいた怪人 の顔と、正面から向き合う。仮面の奥の目と正面から睨 みあうが、怪人の視線に、自分の心の奥底を覗き込まれ るような気がして、顔を背けてしまう。 その予感は的中する。 「やはり君は、縛り上げられた自分の姿を見るのが好き なようだね」 その言葉に、由巳子の顔がかあっと熱くなる。 「うぐ! むぐう!」 由巳子は首を振って、猿轡の下から抗議の声を上げた。 しかし、怪人はそれをむしろ楽しむように、言葉を重ね た。 「先程も、もがきながら自分の姿を鏡で眺めていたでは ないか」 (あの時から、見ていた?!) 由巳子の心臓が爆発するように脈を打った。確かに縄 抜けを試みていたあの時、白銀仮面の出現を警戒し、周 囲に目を遣っていた由巳子は、鏡に移る自分の姿に、幾 度も目を留めていた。 四方八方を己を映した鏡に囲まれていれば、嫌でもそ れが目に留まるのは仕方ない。しかし、それを自分への 言い訳として、その姿を眺めている所が無かったろうか? 「ほら、君の体もこんなに熱くなっている…」 怪人の左手が、ジャンパースカートの脇から侵入して きた。 「むぐ!」 ブラウスの上から、ゆっくりと左の胸の膨らみを揉み 始める。 「う…くっ!」 自分の肌が、怪人の手を今までより近くに感じ、由巳 子は狼狽した。 「君は魅力的だ。だというのに、この学園では清純の美 徳に守られて、異性と触れ合う機会は無い。勿体無い話 ではないかね」 やがて、左手は制服の裾を捲り上げながら、ふくらは ぎを、そして腿をさすり始めた。 (こ、このまま行くと…私、奪われるの?!) その先に起こる事を想像すると、由巳子の胸は不安と 後悔に締め付けられた。いくらもがいても、それは抵抗 の意思を見せるだけで、実際には何の役にも立たない事 は分かっている。怪人が望めば、由巳子の純潔を奪うの は容易いだろう。 生まれて始めて、男の腕に抱かれ、その体温を感じて いる自分。縛めと辱めを受け、犯されようとしている自 分。 (選択の余地が無いなら…受け入れられなくても、受け 入れるしかないなら…) そう思った時、由巳子の心を占める圧倒的な不安と恐 怖、嫌悪の向こうに、背徳の誘惑と甘美な期待が心の奥 底から浮かんできた。 (好きなようにすればいいでしょ、怪人さん) 由巳子が開き直った視線で仮面を見上げた時、ふと、 彼女の体を這い回っていた手が止まった。 「ふふ…お疲れ様だったね、由巳子君。今日は此処まで にしておこう」 白銀仮面は、由巳子の耳元にささやきかけた。 (お…終わった…の…?) その意図を考えるより、由巳子は体の緊張を解き、荒 い呼吸を繰り返した。 「もっと破廉恥な体験を望むなら、探偵倶楽部でこれか らも頑張りたまえ。また君を誘拐してあげるからね」 その言葉に、由巳子はきっと睨み返したが、怪人は意 に介した様子も無く、軽々と由巳子を担ぎ上げたのだっ た。 そして、白銀仮面は地下通路を通り、隠し扉から由巳 子を戸棚に押し込んだ。由巳子がそこから逃れるべく、 汗みどろになってもがいている時、部屋に入ってきた華 子たちの声を聞いたのだった。 寮への道を歩きながら、由巳子は思った。前を歩く美 穂子も、同じような体験をしているのだろうか。 その美穂子が、ふと振り返った。 「由巳子さん…」 「はい」 虚を突かれた由巳子に、美穂子は眼鏡をつい、と押え ながら言った。 「今日は本当に苦しかったと思うけど、これからも大丈 夫?」 その言葉に、由巳子はその裏の意味を想像してしまっ た。既に二度目の拉致を体験した美穂子。恐らく自分と 同様に、白銀仮面による辱めを受けている筈だが、彼女 も部員や美和子先生にはその事を明かさなかった。 その秘密を共有する美穂子の言葉。それは、これから もその事を秘めたまま、怪人の罠にさらに深く踏み込ん で行こうと言う事なのだろうか。 由巳子は考え、そして頷いた。 「…はい!」 「そう…それじゃ、明日からも、頑張りましょう」 美穂子は静かに言い、微笑を浮かべると、再び前に向 き直った。 その言葉を聴き、由巳子は自分が美穂子との共犯者に なったような気がした。次に二度目に拉致される部員も、 その次も、この共犯者の輪に加わるとしたら…それは、 探偵部の全員が、白銀仮面の共犯者、という事にもなる のではないだろうか。 こうやって、白銀仮面は、自分を捕らえようとする者 の中に同心者を増やしていく。そして自分が、三度目に 拉致されたら、その時は何が待ち受けているのだろうか…。 恐ろしく、しかし甘美な想像が心をよぎり、由巳子は 小さく身震いをした。 |